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造船一筋50年以上、社長三代知る鍛冶工。若手職人に残したい仕事を覚える楽しさ。
昭和24年の創業から70年以上に渡り、造船業を主に鍛冶・溶接技術を発達させてきた京浜マリンエンジニアリング。類まれなその技術は大手ゼネコンが手掛ける空港滑走路の新設や、海底トンネルの新設といったインフラ整備にも活かされ、それは人々の安心・安全な暮らしを守ることに繋がっている。後世も絶やすことのできない職人の技術と魂だ。
大手造船所に併設する弊社事業所では、創業者の時代から共に汗を流してきた鍛冶職人が、現在も第一線で技術の継承に熱を注いでいる。造船事業「修繕部」を率いる坊だ。
現場で何かあれば「坊さん!」と頼る後輩の声が響く。若手からの信頼も厚く、彼をなくして京浜マリンエンジニアリングを語ることはできない。三代続く会社を支え続けてきた坊には今、どんな想いがあるのだろうか。
修繕部が手掛ける仕事とは
(以下、坊)大型船の修繕を行う京浜マリンの修繕部は、三菱重工業の横浜製作所内にあります。ここでは客船や貨物船、艦艇など様々な船の修理作業が行われており、専門技術を持つ各社が自分たちの工場を持っています。我々は修繕工事の中でも鍛冶や溶接にあたる部分を担い、航海で劣化した船体の一部取り替えや、必要となる構造物の制作などを行っています。
昭和55年頃まではこの事業所で新造船も手掛けていましたが、今は修繕が専門となりました。豪華外航クルーズ客船では飛鳥が有名ですが、あれ程の大型客船を建造するには莫大な投資が要ります。そのため同じ船を複数同時に製造し一杯(一隻)に対する費用を抑えるのですが、日本国内において大型船は新しく建造することは稀となり、修繕工事の需要が遥かに上回っている状況です。
またこの工場では、沈埋函や橋梁工事、飛行場滑走路などゼネコンによる建設プロジェクトで使用する鋼構造物各種も製造し、現地へと運搬しています。
50年続けてきた船舶造修の鍛冶。携わる職人としての醍醐味。
この仕事は綺麗な仕事とは言えないかもしれませんが、一つ一つが完成していく楽しみがあります。悪くなった部分を直して、また船が海に出ていく。仲間と協力して新たな航海に送り出すのです。船の修繕は長くても約一ヶ月。一つの作業に手間と時間の掛かる仕事ですが、手掛けたものが形になり船に活力が蘇る。それは何物にも代え難い喜びと達成感がありますね。
船のメンテナンスは二年に一度、飛鳥などの大型船になれば一年に一度の点検が義務付けられています。近年は環境保全に関連して法律も変わるので、それに沿うよう改修工事も必要になる。我々には常に次の仕事が待っているのです。
「造船」と言っても新造船と修繕では、作業内容と必要な技量が全く異なります。修理に同じ作業は無く、ドックに船が入ってくる度に補修箇所も違えば直す方法も違う。しかし、だからこそその都度仲間と話し合いながら最適解を考え、多岐に渡って技術が身に付いていく。鍛冶・溶接における多能工として幅広くスキルを磨くのは難しいことだと思いますが、この会社の強い部分はそれらを下支えするようなコミュニケーションが盛んなところでしょう。皆で話し合うことを嫌がる人がいないから。
■創業から変わらない、京浜マリンの文化
私がこの会社に入ってから、今の社長が三代目です。これまでの社長のこともよく知っていますが、世代が変わってもずっと変わらないのは社長の面倒見の良さだと思いますよ。誰に対しても気さくに話しかける。ダメなことはダメ、良いものは良い。そういうこともはっきりしています。
時代が移り変わっても、大事なものが失われずに守られてきているから人が育つ。現場での伝達事項も持ち場のリーダーに伝えておけば全員にきちんと伝わっています。風通しが良い。だから三代も続くのだろうと思いますし、私もこんなに長く勤めているのではないでしょうか。私にとってみれば一番いい会社です。
次の世代に残したいもの
若い人達には、これまで以上に仕事の楽しさを伝えることが大切なのだと思っています。造船の鍛冶工というのは、鉄工において非常にレベルの高い技術が要る多能工です。仕事を覚えていくのは大変ですが、飽きずに続けてもらいたい。
私達の若い頃はまず教えてくれる人がいませんでした。自ら先輩の技を盗んで覚えていかなきゃいけない。できなければ頭を叩かれて、それで良かった時代です。でも今はそうじゃない。
社員が楽しく働けるかというのは指導者にも責務があるでしょう。人それぞれの得意なものを探して、チャレンジできる環境を作ってあげることです。様々な作業をしていく中で、向き不向きがあるし、一人ひとり個性があります。それらを見分けながら、「ここなら本人の長所がひかるんじゃないか」という合った役割を見抜いてあげること。そうでないと嫌になってしまいます。人間ですからね。
少しずつ仕事を覚えていくと、「あ、理解できているな」という意志の疎通が取れるようになります。若い人を育てるのは一番難しいですよ。けれど、成長していく過程を見ていくのは非常に面白いんです。